『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』とイデオロギー

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こんにちは!かいしーです!

かいしー読書部では、私が読んだ本を紹介していきます!

今回紹介するのは『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』です。

Amazon KindleUnlimitedで無料だったので読みました。
文章が上手にまとめられていてお手頃なボリュームのとても読みやすい一冊。
2024年3月に発売されたばかりの新しい本で、2024年のアメリカ大統領選挙にも触れられていました。
テクノ・リバタリアンという、何を考えているのか理解されないシリコンバレーの人々のような最新技術を生み出している側の人たちの思想を伝える一冊…と思いきや、イデオロギー・思想の整理整頓を行う丁寧な本であり、飽きることなく読ませていただきました。

『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』|要約・著者紹介

要約

シリコンバレーの天才たちが希求する「1%のマイノリティだけの世界」
そこは楽園か、ディストピアか?

アメリカのIT企業家の資産総額は上位10数名だけで1兆ドルを超え、日本のGDPの25%にも達する。いまや国家に匹敵する莫大な富と強力なテクノロジーを独占する彼らは、「究極の自由」が約束された社会――既存の国家も民主主義も超越した、数学的に正しい統治――の実現を待ち望んでいる。
いわば「ハイテク自由至上主義」と呼べる哲学を信奉する彼らによって、今後の世界がどう変わりうるのか?

ハイテク分野で活躍する天才には、極端にシステム化された知能をもつ「ハイパー・システマイザー」が多い。彼らはきわめて高い数学的・論理的能力に恵まれているが、認知的共感力に乏しい。それゆえ、幼少時代に周囲になじめず、世界を敵対的なものだと捉えるようになってしまう。イノベーションで驚異的な能力を発揮する一方、他者への痛みを理解しない。テスラのイーロン・マスク、ペイパルの創業者のピーター・ティールなどはその代表格といえる。
社会とのアイデンティティ融合ができない彼らは、「テクノ・リバタリアニズム」を信奉するようになる。自由原理主義(リバタリアニズム)を、シリコンバレーで勃興するハイテクによって実現しようという思想である。

「この惑星上の約40~50億の人間は、去るべき運命にあります。暗号法は、残りの1%のための安全な世界を作り出そうとしているんです」(ティモシー・メイ)
――とてつもない富を獲得した、とてつもなく賢い人々は、いったいこの世界をどう変えようとしているのか? 衝撃の未来像が本書で明かされる。

テクノ・リバタリアニズムを持つ人の行動や考え方をまとめた本と思いきや、様々な政治思想やイデオロギーの特徴をまとめて整理整頓したような本。

歴史や最新技術にも触れつつ、知能指数が高いから良いわけではない、テクノリバタリアニズムを持つから良いわけではない、あなたはこう行動するべきだのような話もない、簡単な解説書のようなもの。

著者紹介

橘 玲
2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部を超えるベストセラーに。06年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。橘玲公式サイト http://www.tachibana-akira.com/

Amazonで調べたら70件以上の本が出てきました。

時代や流行に合ったものをテーマにして上手に文章をまとめ上げることができる方…だと思いました。

キャッチーなタイトルの本が多いですが、その分、多くの方にとって分かりやすいと思われるような文章を書ける方なのだと思います。

これを機に、他の本も読んでみたいと思わせるような方でした。

『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』の感想

自由原理主義、自由主義、共同体主義

リバタリアニズム(自由原理主義)、リベラル(自由主義)、共同体主義(コミュニタリアニズム)の違いを表した表現が凄く分かりやすくて感動しました。

●リバタニアニズム(自由原理主義)
→自己責任

「ひとは自由に生きるのが素晴らしい」

 

●リベラリズム(自由主義)平等重視派
→福祉と人権も大事なので、税金を徴収して再分配することも考える。

「ひとは自由に生きるのが素晴らしい。しかし平等も大事だ」

 

●共同体主義(コミュニタリアニズム)伝統重視派
→自由は大事だが、共同体(ぬくもりのある社会)を守るためには自由や人権を(一定程度)制限することは許容される。

「ひとは自由に生きるのが素晴らしい。しかし伝統も大事だ」

イデオロギーを扱う本を読む際は「あまり鵜呑みにしすぎないこと」「異なる意見も聞くことで視野を狭めたままにしないこと」が大切ではありますが、3つの違いを上手く表しています。

人には様々な思想がありますが、どんな思想であれ「自由」は大切なものだと考えます。

私たちには自由への渇望があるため、自由を抑圧されると不快な気持ちになりますよね。

ではなぜ、人は自由を大切に考えているにもかかわらず、時には自由を制限しようとしたり規制しようとしたりするのでしょうか?

その答えが上の3つの違いで、多くの思想で自由は大切なものだと扱われていますが、自由以外にも自由と同じくらい大切なものがあると考えることがあるのです。

自由は大切だけど平等も大切だ、自由は大切だけど伝統も大切だ。

もし完全に自由にすると、環境や才能の違いで富と名誉が集中してしまう
→平等のためには自由を犠牲にしなくてはいけないのではないか?

歴史や文化、伝統などによって支えられた共同体が幸福を生む
→共同体のために多少自由が制限されても構わないのではないか?

このような考えの違いにより思想の違いが起き、対立をしているのではないでしょうか。

論客同士はどうかは知りませんが、多くの場合において思想の対立は醜いものです。

あの人は頭が悪いから理解できないんだ。

とお互いが平気で見下し合っています。

頭が悪いから理解できないのではなく、信念のような根本的な部分における違いなんだ、ということを再確認してほしいものです。

すべての理想を同時に実現することはできないのですから。

ジョナサン・ハイトの6つの道徳基盤

本書ではジョナサン・ハイトの6つの道徳基盤が紹介されています。

ジョナサン・ハイトさんはアメリカの社会心理学者であり、TEDトークにも出演されている方だそうです。

著書も面白そうなものがあったため、来年のどこかで読んでみようと思います。

そんなジョナサン・ハイトの6つの道徳基盤とは、

①安全/危害 子供や弱いものを守る
②公正/不正 協力を良しとし、不正を罰する
③忠誠/背信 仲間意識、愛国心
④権威/反抗 上下関係の重視
⑤神聖/穢れ 不浄を避ける。宗教感情。
⑥自由/抑圧 私的所有権の尊重

というものです。

すべての道徳が善悪二元論になっており、わたしたちはこの6つの道徳基盤を持っているという主張です。

ただ、その受け止め方は思想によって大きく異なります。

例えば①の「安全/危害」について、共同体に価値を置く保守派は「自分たちの子供や家族を守る」と考えるのですが、共同体への忠誠心をあまりもたないリベラル派は「虐げられているすべての子供を守る」と考えるそうです。

「子どもを守りたい」という同じ考えでも、自分の子供なのか全ての子供なのかで考え方が変わるのですね。

「②公正/不正」についても、保守派は「機会の平等」という”公正な競争の結果、不平等になるのは当然だ”という考えをもち、リベラルは「結果の平等」という”社会の不平等が限度を超えて広がるのは公正ではない”という考え方を持ちます。

「⑥自由/抑圧」では、保守派は「勤労の倫理を踏みにじる”不道徳な者たち”が自由の敵だ」「無責任な怠け者はその報いを受けるべきだ」という考え、リベラルは「独裁権力が自由を抑圧する元凶だ」という考えです。

公正・自由が大切だという気持ちは同じでも、何を公正・自由と捉えるかに思想の違いがあるのですね。

ただ、①②⑥の価値は保守派もリベラルも共通して持っているのですが、③④⑤は保守派の人だけが持つそうです。

つまり、保守派は①~⑥の全てを大事に思っていますが、リベラルは①②⑥しか大事だと思っていない。
忠誠・上下関係・宗教は自由を制限するものだと考えているわけですね。

保守派の人の方が多くの道徳基盤を持つということは、保守派とリベラルが争うと保守派の方が多くの支持を集めるとのことらしいです。

どちらが”正しい”かという道徳的な議論になると、保守派の意見が無難で道徳的リスクが少ない(責任を追及されにくい)ため、保守派の意見が採用されやすいということですかね。

論理・数学的知能と言語的知能、高知能の呪い

論理・数学的知能(SQ)と言語的知能(EQ)は、いずれも知識社会を生きていくのに重要だが、脳のリソースは限られており、どうやら両者を高いレベルで維持することはできないらしい。

SQとは一般的に「社会性の知能指数」として知られているので、どういう略称でSQになっているのかはよく分かりませんが(IQだとしても少し違うような?)、数学的な頭の良さと言語的知能(EQ、感情の知能指数)はトレードオフの関係であると。

「数学的知能があり論理的な人は感情が理解できず、感情の知能指数の高い人は数学や論理が得意ではない。トレードオフの関係だ。」という考えは理解できますが、どちらも高水準で持っている人もいれば、どちらも低水準の人もいるでしょう。

ただ、テクノ・リバタリアンという異次元レベルで論理・数学的知能が高水準(正規分布で+4σ以上の人、全体の0.003%以下の人)くらいになると、EQと両立することができないということなのですかね。

IQは正規分布に従います。

1標準偏差内(偏差値40~60)の人は約7割弱であるため、ほとんどの大衆娯楽はこの7割を対象に作られます。

このせいで、高知能者(IQ145以上)は楽しめるものがほとんどなくなり、これを「高知能の呪い」と呼ぶとのこと。

国や宗教などの共同体とアイデンティティを融合させると「ナショナリズム」「宗教原理主義者」になりますが、その対象が個人に変わったのが「推し活」。熱狂や陶酔をもたらしてくれるこれらの行為は強い幸福感に繋がります。

EQの高い人はアイデンティティ融合をすることができるため、同じ都道府県出身であったり同じプロ野球チームを応援したりするだけで「仲間意識」が芽生えますし、推し活にハマることもできます。

しかし、EQが低く論理・数学的知能が高いような人たちは、他者との共感をうまく構築できないため、アイデンティティの融合が難しく、「一体なぜ野球、サッカー、アメフト、アイドルに夢中になれるの?」と感じるそうです。

一応言うと、EQも論理・数学的知能も両方低い人もいるため「推し活にハマってないということは論理・数学的知能が高いということ」ではありません。論理的に考えることに慣れている人であればすぐ分かることですが、一応。

良くも悪くも大衆から大きく外れている人は、多くの人に受け入れられる娯楽を楽しむことができない…のですかね?
確かに、頭が良すぎて何考えているか分からない大学教授が一般的な娯楽を楽しんでいるイメージはありませんが…そこは分かりませんね。

その他の感想

後は、ギャンブル版SDGsという言葉が面白いと感じました。

持続可能な社会ならぬ、持続可能なカモ。

一回で全てのお金を搾り取ろうとせず、生涯かけて破滅しない範囲でお金を搾り取る。ギャンブル版SDGs。

 

あと、テクノ・リバタリアンというタイトルにも関わらず、テクノ・リバタリアンとは何なのかいまいち分かりにくかったです。

ただ、イデオロギーの理解にはとても良い本でしたので、楽しんで読むことのできる本だったのかなと思います。Amazon Kindle Unlimitedで無料ですしね。

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