同じの定義とは
同じの定義とは何だと思いますか?
ちょっとした例を元に、考えてみましょう。
あなたは自転車を使っていますが、サドルが古くなったのでサドルも交換しました。
この自転車は、サドルを交換する前の自転車と同じでしょうか?
確かに、サドルを変えたせいで同じ自転車とはいえないかもしれませんが、サドルが付いているという事実は変わらないため同じ自転車といえるかもしれません。
例の続きをみてみましょう。
次に、タイヤがパンクしたので交換しました。
壁に衝突し自転車が歪んでしまったので、カゴとフレームも交換しました。
ちょうど良い機会なのでチェーンとブレーキとライトも変え、なんならペダルとスタンドとリフレクターと鍵も変えました。
たくさんのパーツを入れ替えたこの自転車は元の自転車と同じといえるでしょうか??
それは「同じ」の定義によりますよね。
では、何を以て「同じ」と言うのでしょう。
このように“とある物体”を構成しているパーツが別のものに置き換えられたとき、”とある物体”は以前と同じといえるのか、ということをテセウスのパラドックス(テセウスの船)といいます。
テセウスの船(テセウスのパラドックス)とは
テセウスの船(別名:テセウスのパラドックス)は、ギリシャ神話のとある話が元となっています。
英雄テセウスはとある島でミノタウロスを倒し船を使って帰還しました。
その船は記念品となり長い間保存されたのですが、木製であるため少しずつ朽ちてしまい少しずつパーツを入れ替え、遂に元のパーツが1つもなくなってしまったのです。
先程の自転車のように「パーツが入れ替わってしまったのだから別のものになってしまった」とも言えますし、「記念品として保存されている船という事実は同じなのだから同じ船だ」とも言えます。
これが矛盾、いわゆるパラドックスとなっているのです。
また、入れ替えられた古いパーツのみを集めもう1つの船を作ったとしたならばそれはテセウスの船となり得るのかという問いも存在します。
現代で例えるならば
「会社を作ったが10年後には社員が全員代わっていた。」
「細胞は約10年で入れ替わる。10年前の自分を構成していた細胞はもうない。」
「シャンプーの詰め替えを何度も行っている。」
これらについても前と後で同じものと言えるのかどうか、難しい問題ですよね。
「同じ」とはどういう定義であり、これらの問いにどう答えていけば良いのでしょうか?
アリストテレスの四原因説とは
ここで、アリストテレスが論じた「四原因説」というものを使って「同じ」という言葉を定義していきます。
四原因説とは、世の中の物事は「質料因」「形相因」「作用因」「目的因」の4つの原因から構成されているという考え方です。
例えば、家を建てるということは
・「質料因」:木やコンクリート等の材料・素材
・「形相因」:3階建てで洋風の家にしようというイメージ
・「作用因」:実際に建てるという行動や原因
・「目的因」:住むという目的や用途
の4つが存在していると考えられます。
このように、物事を4つの視点から考えることで「同じ」を定義することができます。
自転車や船のパーツを入れ替え新しくなったということは
「質料因」という視点から見ると、材料が変わったため同じではないと言え、
「目的因」という視点から見ると、自分が使っていた自転車(テセウスが使っていた船)という目的が変わっていないため同じと言えます。
形が同じであれば「形相因」は同じですし、作り方が変わらないのであれば「作用因」も同じでしょう。もちろん、そこが変われば同じとは言えなくなります。
入れ替えられた古いパーツのみを集め作った船であれば
「質料因」は元々のテセウスの船と同じですが、
「目的因」はミノタウロスを倒し帰還するために使われた船ではないため異なります。
「一度入った川には二度と入れない」という有名な話があります
川は流れており「質料因」は異なりますが、「形相因」は同じであるでしょう。
その他の問いにも同じように答えることができるのではないでしょうか。
同じの定義とは
「同じ」の定義はアリストテレスの「四原因説」から求めることができます。
「質料因」「形相因」「作用因」「目的因」、つまり、「素材」「イメージ」「原因」「目的」のどれかが同じであると私たちは「同じ」と呼びます。
4つ全てが一致しているときが「本当の”同じ”」であると言えるかもしれませんが、そこまで厳密に”同じ”という言葉を使っている人はいないでしょうね。