ラプラスの悪魔、マクスウェルの悪魔という言葉を知っていますか?
物理学に登場する非常な有名な悪魔が、ラプラスの悪魔とマクスウェルの悪魔です。
物理学という現実を見ていそうな学問と、オカルト的な存在である悪魔が組み合わされている不思議な言葉ですよね。
今回は、ラプラスの悪魔とマクスウェルの悪魔について解説していきます。
ラプラスの悪魔とマクスウェルの悪魔
ラプラスの悪魔もマクスウェルの悪魔も、どちらも物理学の思考実験に出てくる仮想の悪魔です。
ただ、ラプラスの悪魔とマクスウェルの悪魔は全くの別物です。
悪魔とはただの例で、全知全能の神のような、「人間には不可能だけど、こういうことのできる存在がいたらこの法則は成り立たないんじゃないか?」という形で登場する、空想上の存在のことを物理学の中で悪魔と呼ぶことがあります。
物理学に登場する悪魔は、ある法則や考え方に対して、「でも、こういう悪魔がいたとしたら成り立たなくない?」という意味として使います。
つまり、ラプラスの悪魔もマクスウェルの悪魔も、とある考え方に対して「でも、こういう悪魔がいたら成り立たなくない?」という話であり、多くの人が「確かにそうかもしれない…」と思ってしまうため有名な話として今も語られているのです。
ラプラスの悪魔とは
1814年に数学者のピエール=シモン・ラプラスが言明した理論のことを一般的にラプラスの悪魔と呼んでいます。
話は簡単です。
ニュートンの法則や万有引力の法則が提唱された
リンゴも惑星も、宇宙のありとあらゆる物体は物理法則に従って動いている
もし、世界全ての粒子の位置と速度が分かれば(悪魔)、世界全ての物体の未来が予測できる
つまり、未来は決まっている
というものです。
サイコロを投げたとき、サイコロの目はいつ決まるのでしょうか。
サイコロが止まったとき?
投げた瞬間?
サイコロを手に持ったとき?
それとも、もっと前から…?
サイコロが止まったときにサイコロの目が決まると思いますが、物理学を駆使すれば、サイコロを投げた瞬間に、手の力や重力、空気抵抗を計算することでサイコロの目を予測できそうですよね。
もし、サイコロを投げた瞬間に「手の強さ、重力、空気抵抗や温度・湿度、風邪の向き…etc.」を全て知っていて、かつ、瞬時に計算できるような存在(ラプラスの悪魔)がいれば、サイコロを投げた瞬間にサイコロの目を知ることができるのではないでしょうか?
と考えるのです。
さらに拡張します。
私たちの身体は、細かく細かく見ると全て原子からできていますよね。
リンゴや惑星がニュートンの法則によって未来が予測できるように、私たちの身体をつくっている原子も物体であるため、式に当てはめれば同様に未来の動きを計算できるだろう。
今、この世のありとあらゆる原子の位置と動きを知っており、瞬時に計算できる存在がいれば、私たちが次に何を考え、どのように行動するかも原子の動きから予測できてしまう。
全ての未来は、今の状態が全て分かれば計算で求めることができるため、未来は予め決まっているのだ。
という考えが、ラプラスの悪魔です。
しかし、ラプラスの悪魔は既に討伐されています。
ラプラスの悪魔には、
今の全ての状態(粒子の位置と速さ)さえ分かれば未来は計算で求めることができる
という話であるため、今の状態は全て分からない、または、未来は計算で求められないということを示せば良いのです。
1900年代に量子力学が登場し、「不確定性原理」によって粒子の位置と運動量(速さのようなもの)を同時に正確に測定することはできないことが示されました。
簡単に言うと、位置が分かれば速さは分からない、速さが分かると位置が分からなくなってしまうのが不確定性原理です。
つまり、今の全ての状態を知ることは原理的に不可能、どんな悪魔でも知ることができないのです。
また、カオス理論により、初期条件が少しでも異なると長期予測が不正確になることが判明しました。
(2020年に書いた当サイト初期の記事なので、今見るとかなり拙くて恥ずかしいです…。)
簡単に言うと、今の物体の位置や速度を少しでも間違って計算してしまうと、未来の物体の動きを正確に計算できなくなってしまうのです。
つまり、今を完全に知ることはできない、少しでも今の状態を間違えると未来予測は不正確になる、この2つの事実によってラプラスの悪魔は討伐されたのです。
マクスウェルの悪魔とは
マクスウェル方程式で有名な物理学ジェームズ・クラーク・マクスウェルは、1871年に自らの著書にとある思考実験を提示しました。一般的にマクスウェルの悪魔と呼ばれています。
上でも述べたように、マクスウェルの悪魔はラプラスの悪魔とは別物です。
ラプラスの悪魔よりもマクスウェルの悪魔の方が難しいため、説明が長くなってしまうことをご容赦ください。
さて、マクスウェルの悪魔を理解するためには、まず先に熱力学第二法則について知らなくてはいけなせん。
熱力学第二法則とは、熱は暖かいものから冷たいものの方に移動するという法則です。
簡単に言うと、寒い日にカイロで暖まろうとしたら手の熱がカイロに奪われて寒くなったとか、発熱したから水枕をしたら水枕から熱を奪われて頭が熱くなった、ということは起こらないという法則ですね。
熱は熱いものから冷たいものの方に移動する、これは物理の大前提としてありますよということです。
部屋が二つあり、真ん中にドアがあるとします。(真ん中である必要はありませんが)
最初、二つの部屋の温度は同じです。
空気は動いているので、ドアに大量の空気の分子が衝突しています。
さて、部屋の真ん中にあるドアを開け閉めすることができる悪魔がいたとしましょう。
この悪魔は、自分の周囲にある分子の速さを瞬時に理解することができます。
さらに、速度の大きい分子が左の部屋から右の部屋に行こうとした瞬間と、速度の小さい分子が右の部屋から左の部屋に行こうとした瞬間にドアを開けることができ、それ以外の場合はドアを瞬時にドアを閉じることのできる能力を持っているとします。
このとき、速度の大きい分子が右の部屋に集まり、速度の小さい分子が左の部屋に集まるため、右の部屋の温度が上昇し左の部屋の温度が減少するのではないか。
つまり、熱力学第二法則は成り立たない。
これがマクスウェルの悪魔です。
通常、右の部屋を暖め左の部屋の冷やすためには外部から仕事をする必要があります。エアコン使うとか。
しかし、この悪魔はドアを開け閉めするというエアコンよりも非常に小さい仕事しかしていません。
この悪魔は、ドアを開け閉めすること以外の仕事をしたのでしょうか?(ドアを開け閉めする以外にエネルギーを使ったの?)
この疑問に対して正確な解答をすることは私にはできません。
なぜなら、マクスウェルの悪魔はラプラスの悪魔と違い、まだ完全には討伐されていないからです。
マクスウェルの悪魔については現代でも新しい論文が発表されています。まだまだ未解決ということですね。
マクスウェルの悪魔が完全に討伐されるか生き残るかは、これから先の未来の話になります。
一応、今の段階で言われていることを簡単に言うと、悪魔は情報を扱うためにエネルギーを使っているという説です。
悪魔は、分子が速いか遅いかという情報を得る必要がある。
次の分子の速度が大きいか小さいか知るためには、前の分子の速度の大小に関する情報を捨てる必要がある。
情報を捨てるときにエネルギーを消費している。
というものです。
悪魔はエアコンと同様にエネルギーを使う存在だったということですね。
これ以上しっかり理論を理解するためには情報物理学を学ぶ必要があります。
まとめ
ラプラスの悪魔は、今を全て知っていれば未来を完璧に予測できるのではないかという悪魔。
マクスウェルの悪魔は、エネルギーを使わずに熱を好きな方向に動かすことのできる悪魔。
のことです。
この2つの悪魔は全くの別物であり、思想実験上の存在です。実際に悪魔がいるわけではありません。悪魔の証明になりますが。
ラプラスの悪魔はもう現代には存在しておらず、未来は完全に予測することはできないことが分かっています。
しかし、マクスウェルの悪魔は現代でも完全には消滅していません。これから先、いつか完全な答えが見つかるのだと思います。